一番最初の理不尽な記憶
2歳の私は夜に幸子と2人、積み重なった布団の上で数を数える練習をしていた。
「いち、にぃ、さん、よん、ご、なな、いち???」
なかなか覚えられないでいると幸子は優しく
「いち、に、さん、し、ご、ろく、しち、はち、きゅう、じゅ!よ。」
と教えてくれた。
それが嬉しくて楽しくて私は何度も何度も繰り返したが、やはり頭で理解するのに口がついてこず何度も間違えてしまう。
「いち、にぃ、よん、あ!もーわっかんないよ?」と人差し指をくるくると回し、幸子が笑ってくれると思いおどけてみせた。
その瞬間、突然幸子にものすごい力で腕を掴まれ、玄関の外まで引き摺り出されというかほぼ投げ捨てられドアをガチャンっと閉められてしまった。
そこそこの高さがあったマンションの廊下に裸足にパジャマで放り出されるも、初めのうちはよく状況が飲み込めず、まだ呑気に柵から足を出してプラプラしたり、柵を横に伝って歩いたり遊んでいた。
しかしだんだんと足が痛くなる。真冬に吹きっさらしのコンクリートの廊下を裸足でうろついているのだから当たり前なのだが、なんせ数も数えられない年の私はそれに気付かない。
「おかあさん!おかあさん!あしいたいよ!おうちにいれて!」
玄関ドアを叩くも幸子の返事はない。
いよいよ怖くなり大泣きしていると、同じ階に住んでいる男の子2人兄弟がいる幸子より大分若くみえるお母さんが出てきてくれたのだが、足の痛みと恐怖と顎の震えでうまく話せなかった。
そのお母さんが私を抱き抱えてくれると、あんなに開かなかったうちの玄関ドアはすんなり開いていつもの笑顔の幸子がいた。
記憶はここで途絶えている。